多くの企業でサステナブル経営を求められる場面が増え、その対応に課題を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?特に、近年気候変動により、改めてサステナビリティの必要性が注目されています。この記事では、サステナブル経営について詳しく解説した上で、推進に役立つデジタル技術をご紹介していきます。
サステナビリティの基本的な考え方
サステナビリティとは、地球環境や社会の持続可能性を考慮した活動を行うことを指します。すなわち、未来の世代が必要とする資源を犠牲にすることなく、現在のニーズを満たすことが重要になります。そのため、環境保護、社会的責任、経済成長のバランスを取ることを重要視しています。
サステナビリティの意義
サステナビリティの意義は多岐にわたります。まず、環境面では、地球の限られた資源や環境を保護することを目指します。社会面では、すべての人々に公平な機会と生活の質を提供することを目指します。経済面においては、長期的に安定した成長を実現するため、持続可能なビジネスモデルの構築を目指します。
SDGs・ESG・CSRとは?~違いを整理
サステナビリティという言葉と付随してよく聞かれるのが、SDGs、ESG、CSRです。しかし、SDGs、ESG、CSRの違いを明確に説明できる方は少ないのではないでしょうか?ここでは、それぞれについて解説し、違いを整理していきます。
SDGsとは?
SDGsは、Sustainable Development Goalsのことで、持続可能な開発目標と訳されます。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択されたものです。具体的には、17のゴールが設定されており、さらに細分化した169のターゲットから構成されています。
ESGとは?
ESGは「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとった言葉です。企業経営や投資活動の際に、これらの要素を持続可能性を図る基準として捉え、活動の判断材料として検討されます。
CSRとは?
CSRは、Corporate Social Responsibilityのことで、企業の社会的責任のことです。企業が主体となり、社会的責任の遂行を行うため、企業の自主的な取り組みが中心となり、法令順守や地域貢献などの活動が行われます。
SDGs・ESG・CSRの違い
企業はSDGsを活用して長期的なビジョンを策定し、ESG基準を基に自社の活動を測定し、CSRを通じて具体的な社会貢献を実施することで、持続可能な未来の構築に貢献します。企業はこうした活動を通して、ステークホルダーとの信頼関係を強化し、持続可能な価値を創造することが可能となります。

サステナブル経営の3つの柱
サステナブル経営は、企業が長期的な視点で持続可能な成長を目指すためのアプローチです。その中心には環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の三つの柱があります。これらは先述したESGを指し、企業の活動がどのように地球や社会、そしてガバナンスに影響を及ぼすかを評価する指標となります。
環境(Environment)

「環境(Environment)」の要素は、企業の活動が自然環境にどういった影響を与えているか検討するものです。環境への配慮は、資源の効率的な利用や廃棄物の削減、温室効果ガスの排出抑制など、具体的な行動が求められます。
企業は、環境方針を明確に定め、ISO14001などの国際規格に基づいた環境マネジメントシステムを導入することで、環境リスクを管理し、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能です。
また、再生可能エネルギーの利用やサプライチェーン全体での環境負荷の低減を推進することは、顧客や投資家から高い評価を得る要因となります。
さらに、環境問題への対応は、企業のイノベーションを促進する機会にもなります。例えば、製品やプロセスの設計段階から環境影響を考慮するエコデザインの導入は、新たな市場機会の創出にも繋がります。
社会(Social)

「社会(Social)」の要素は、企業活動が地域社会や人々に与える影響を検討するものです。多様性の尊重や地域社会への貢献、従業員の福祉向上など、幅広い要素を含みます。
企業が社会的責任を果たすためには、働きやすい職場環境の整備や従業員の権利の尊重が不可欠です。また、地域社会との良好な関係構築も重要となり、企業は、地域のニーズを理解し、地域社会の発展に寄与することで、社会的信頼を高めることができます。
さらに、サプライチェーン全体での倫理的な行動や人権の尊重も重要です。サプライヤーに協力してもらい、労働基準を守ることや、環境に配慮した調達を行うことが含まれます。
ガバナンス(Governance)

ガバナンス(Governance)とは、企業の意思決定プロセスや管理体制を指し、透明性、公正性、説明責任を確保することを目的としています。サステナブル経営におけるガバナンスは、特に長期的な視野でのリスク管理や倫理的なビジネス慣行の推進を指します。
具体的には、取締役会の独立性の確保、コンプライアンス体制の整備、ステークホルダーとの対話の強化、情報開示の透明性などが挙げられます。
取締役会は、経営戦略の策定と監視を行う中で、環境・社会課題に対する企業の取り組みを見守り、持続可能なビジネスモデルの構築を推進します。コンプライアンス体制の強化は、法令遵守だけでなく、企業倫理や社会的責任を果たすための基盤となります。
さらに、ステークホルダーとの対話を通じて、企業はその活動が社会に与える影響を理解し、適切なフィードバックを得ることができます。これにより、企業は社会からの信頼を獲得し、長期的な安定成長を達成する基盤となります。
なぜサステナブル経営が必要なのか?必要性とメリットを解説
ここまで、サステナブル経営の3つの柱をご紹介してきましたが、では、なぜサステナブル経営が必要なのでしょうか。それは、サステナブル経営は、現代社会において企業が長期的に成功を収めるための重要な戦略となっているからです。持続可能な社会の実現に貢献することが、企業自身の競争力や存続に直結しています。
では、実際にサステナブル経営を行うメリットはどのようなものになるでしょうか?サステナブル経営によって得られるメリットを具体的に挙げてみます。
・企業価値の向上
・人材確保・従業員エンゲージメントの向上
・投資家・取引先からの評価
・リスクマネジメントと事業継続性
企業価値の向上
企業が環境や社会への配慮を示すことで、消費者や取引先からの信頼を獲得し、企業への信頼性が高まります。特に、消費者は持続可能な製品やサービスを提供する企業を選ぶ傾向が強まっており、サステナビリティを重視する製品を選択する傾向があります。
また、サスティナビリティを意識した製品を市場に出していくことで、企業のビジョンやミッションが明確化され、企業ブランド価値の向上が期待されます。さらに、社会的責任を果たす姿勢は、メディアや口コミを通じて広く認知されることが多く、結果として社会へポジティブな印象を与えることができます。
人材確保・従業員エンゲージメントの向上
持続可能なビジョンを掲げる企業は、社会的責任を果たそうとする姿勢を示すことで、そのビジョンに共感する優れた人材を引き付けることができます。近年の求職者は、環境や社会に貢献する企業で働くことに価値を見出しやすく、その結果、企業の人材競争力が向上します。
また、サステナブル経営の取り組みを通じて、従業員は自社の活動が社会に与えるポジティブな影響を実感し、仕事への満足度や会社への忠誠心が高まります。こうすることで、従業員のエンゲージメントが高くなります。さらに、こうした従業員が自発的に新しいアイデアや改善策を提案するようになり、企業全体のイノベーションが促進されます。
投資家・取引先からの評価
近年、投資家は企業の持続可能性への取り組みを投資判断の重要な要素としています。特にESG(環境・社会・ガバナンス)基準に基づく投資が増加する中で、サステナブル経営を実践する企業は、投資家からの評価を得やすくなります。
また、取引先にとっても、サステナブルな方針を持つ企業は魅力的なパートナーとなります。取引先は、自社のサプライチェーンの持続可能性を高めるために、環境や社会に配慮した企業との取引を優先したいと考えます。このため、サステナブル経営を進めることは、取引先との関係を強化することにつながります。
リスクマネジメントと事業継続性
企業が直面するリスクには、自然災害、経済の変動、技術の進化、社会的な変化など多岐にわたります。これらのリスクを適切に管理し、事業の中断を回避することは、企業の持続可能性に直結します。
特に、近年の地球規模での気候変動は、企業にとって新たなリスクを生み出しています。こうしたリスクに対する備えとして、企業はリスクアセスメントを実施し、潜在的な脅威を特定して緩和策を講じることで、危機発生時に迅速に対応できる体制を整えることができます。
また、デジタル技術を活用することで、データのリアルタイム監視や、AIを用いたリスク予測をすることができ、近代的なリスクマネジメントが可能になります。
サステナブル経営の実践ステップ

サステナブル経営を実践するための具体的なステップを解説します。
- ビジョンの策定
- 重要課題の特定
- KPI・目標の設定
- モニタリング
- 情報開示やコミュニケーション
1.ビジョンの策定
まず、最初のステップとして、企業活動が社会や環境へどのように影響を与えているかを捉え、どのような未来を描くのかを明確にする必要があります。その中で、サスティナビリティに関する企業の理念や価値観を明確にしていきます。
2. 重要課題の特定
企業は自社にとって重要な社会的、経済的、環境的な課題を洗い出していきます。これには、ステークホルダーからの視点も考慮する必要があります。
具体的には、まずステークホルダーからのフィードバックや市場調査を通じて、どの課題がサステナビリティにとって最も重要であるかを判断します。次に、これらの課題を解決するための戦略を策定し、自社のサステナビリティに関する理念や価値観と照らし合わせ、優先順位をつけることが重要です。
また、特定した重要課題は、持続可能な開発目標(SDGs)と連携させることで、グローバルな視点から、サステナブルな取り組みを行うことができます。
3. KPI・目標の設定
重要課題を特定した後に、進捗を測定するための具体的な指標(KPI)と達成すべき目標を設定します。指標は、測定可能で現実的なものであることが望ましいです。また、短期的および長期的な目標を同時に設定することも重要です。
4. モニタリング
設定したKPIは、定期的なモニタリングを通じて進捗状況を確認し、その結果をもとに改善策を講じることが求められます。モニタリングのプロセスには、データの収集、分析、報告が含まれます。KPIの結果は、ステークホルダーへの透明性ある情報開示につながり、企業の持続可能性への取り組みがどのように進展しているかを示す重要な指標となります。
5. 情報開示やコミュニケーション
情報開示やコミュニケーションは、サステナブル経営の透明性を高めるための重要なステップです。企業は、持続可能性に関する進捗や成果を定期的に報告し、ステークホルダーとの信頼関係を築く必要があります。
この報告には、ESG(環境・社会・ガバナンス)指標を含む詳細なデータを用いることが推奨されます。また、情報開示は単にデータを提供するだけでなく、企業のビジョンや戦略を伝え、ステークホルダーが企業の取り組みを理解しやすいよう工夫することが求められます。
サステナブル経営とデジタル活用事例
ここまで、サステナブル経営に向けたステップを紹介してきましたが、サステナブル経営を効率的に行うためには、デジタル技術の活用が不可欠です。しかし、どのようなデジタル技術をどのように活用したらいいか分からないといったお悩みがあるのではないでしょうか?
ここでは、サステナブル経営に対して、どのようなデジタル技術がどのように活用できるのかを事例も合わせて解説していきます。
データ分析・可視化ツールの活用

サステナブル経営の強力なサポートとなるのが、データ分析・可視化ツールです。サステナブル経営を行う際の重要なステップとしてKPIや目標のモニタリングがあります。その一助となるのが、データ分析・可視化ツールです。また、こうしたツールを使用することで効率的にステークホルダーに対して透明性の高い報告が可能になります。
具体的な使用事例として、ある食品メーカーは、データ分析ツールを用いて製造工程の各ステップにおけるエネルギー消費を可視化し、エネルギー使用量が特に多い工程を特定しました。その結果、機械の稼働時間を最適化し、エネルギーコストを15%削減することに成功しました。
ESGレポーティング支援ツール

ESGレポーティング支援ツールは、企業が環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の各側面における取り組みを報告するためのツールです。データの収集、整理、分析を自動化するだけでなく、企業が正確かつ透明性の高いレポートを作成する際に役立つツールです。日々変動する国際的なガイドラインや規制に準拠したレポーティングにも対応しており、ESGのレポート作成効率を向上させることができます。
具体的な使用事例として、あるテクノロジー企業は、ESGレポーティング支援ツールを活用して、各国で異なる環境規制に対応するためのデータを自動的に収集し、レポートを作成することで、報告作成の時間を大幅に短縮し、コンプライアンスを強化することができました。
AI・IoTによる環境負荷の最適化

AI・IoTによる環境負荷の最適化では、リアルタイムでのデータ収集と分析ができ、エネルギー消費の効率化や資源の無駄を削減するための具体的なインサイトを提供します。
例えば、IoTデバイスやスマートセンサーを用いて工場やオフィスビルのエネルギー使用をモニタリングし、AIアルゴリズムで最適な運用スケジュールを自動的に決定することができます。最終的には、エネルギー効率を向上させるだけでなく、コスト削減にもつながります。
具体的な使用事例として、ある物流企業が、AIとIoT技術を組み合わせて、車両の運行データをリアルタイムで分析し、最適な配送ルートを自動で計算し、燃料消費を10%削減するといった取り組みも行われています。
ERPで一元管理
また、サステナブル経営のために個別のツールを使用するのではなく、ERP(基幹システム)の中で管理するということもできるようになってきました。こうした個別ツールによる管理から一歩進み、企業全体の情報を統合的に扱える仕組みとして、ERPの活用が注目されています。
テクトラジャパンでは、サステナビリティマネージメントの機能メニューが新たに追加されたMicrosoft Dynamics 365 Business central の導入支援をしています。
Business centralでは、サステナビリティ規定値の設定やサステナビリティのデータ取得、レポート作成や分析、目標値の設定が可能であり、通常の業務で使用しているERPでデータ分析や可視化、またモニタリングまで可能になります。
導入するメリットとしては、財務・非財務データを同じERP基盤で管理できるため、サステナビリティに関するデータの整合性が高まり、レポートも効率的に作成することができるようになることです。
詳細なBusiness centralの機能を別の記事で紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。
サステナブル経営の今後の展望と注目トレンド
今後のサステナブル経営において、企業が注目すべきトレンドを紹介します。
・サステナブルファイナンスの拡大
・グリーンイノベーション
・国際的な規制動向
サステナブルファイナンスの拡大
サステナブルファイナンスとは、持続可能な社会を実現するための金融のことを指します。近年、投資家の意識の高まりや国際的な規制や政策の推進といった動きの中で、サステナブルファイナンスの重要性が高まってきています。
また、各国政府や国際機関がサステナブルな投資を支援するための枠組みを整備しています。サステナブルファイナンスは新興市場への展開や既存市場での深耕が期待され、今後もさらなる拡大が見込まれます。
グリーンイノベーション
グリーンイノベーションは、持続可能な未来を目指すために新たな技術やビジネスモデルを開発し、サステナビリティと経済活動を両立した取り組み創出することを指します。
日本では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする目標を掲げており、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に対して3兆円近い基金を造成し、グリーンイノベーション基金を立ち上げています。この基金を通して、サステナビリティと経済的価値を同時に創出する取り組みに対して、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援しています。
国際的な規制動向
2023年6月に「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」は、、「全般的な開示要求事項(S1基準)」および「気候関連開示(S2基準)」を最終化しており、2025年3月、ISSB基準に基づきサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が日本版基準を策定中であり、2027年以降東証プライム上場企業から段階的に適用される見込みです。
国際機関および世界各国で活発な動きがあり、今後も注目が必要になります。
サステナブル経営は企業の未来戦略 ~持続可能な世界へ~
サステナブル経営は、企業の活動を通じてサステナビリティの実現を目指すといった単なる目標ではなく、企業存続に直結した企業の重要な未来戦略として捉えられます。その中で、デジタル技術を活用し、データ分析やAIを駆使してサステナビリティを効率的に追及することも今後の企業戦略の中では重要になってくる要素ではないでしょうか。
持続可能な未来は、今の選択から始まります。テクトラジャパンでは、Microsoft Dynamics 365 Business Centralを活用したサステナビリティ経営の第一歩を、専門チームが丁寧にサポートします。まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
1. サステナブル経営とは何ですか?
企業が環境・社会・経済の3つの側面から持続可能性を追求する経営スタイルです。短期的な利益だけでなく、長期的な企業価値や社会的責任を重視します。
2. なぜ今、サステナブル経営が重要なのですか?
気候変動、資源枯渇、社会的格差などの社会課題が深刻化する中で、ESG投資の拡大や規制強化により、サステナブル経営は企業にとって企業価値を向上させる重要な課題となっています。
3. サステナブル経営はどのように始めればよいですか?
まずは現状の環境・社会への影響を可視化し、優先課題を特定します。次に、サステナビリティ目標(例:CO₂削減、ダイバーシティ推進)を設定し、KPIを設けて進捗を管理します。
4. デジタル技術はサステナブル経営にどう役立ちますか?
AI・IoT・クラウドなどを活用することで、エネルギー使用量の最適化、サプライチェーンの可視化、環境負荷の予測・削減が可能になります。
5. サステナブル経営はコストがかかるのでは?
初期投資は必要ですが、長期的にはエネルギーコスト削減、ブランド価値向上、リスク低減などのメリットがあります。
6. どの部署がサステナブル経営を担当すべきですか?
経営層のコミットメントが不可欠ですが、全社的な取り組みが求められます。特に、経営企画部、CSR部門、サプライチェーン管理部門、IT部門などが中心的な役割を担います。
7. 中小企業でもサステナブル経営に取り組めますか?
もちろん可能です。まずは省エネや廃棄物削減など、身近な取り組みから始めることができます。自治体や業界団体の支援制度も活用できます。