ERP導入におけるFit to Standard とは
ERPについて、最新のトレンドとして「Fit to Standard」(F2Sと略される)という言葉を良く耳にすることがあります。文字通り、「標準に合わせる」という意味で、ERPの標準機能に合せて導入するということです。
1990年代に海外製のERPが日本に導入されはじめた頃、「ベストプラクティス(Best Practice)のERPに業務を合わせて導入する」ということがERPベンダーより良く言われていました。
最も効率良くパフォーマンスを上げている企業のプロセスに基づいて開発・運用されているERPに合せることで、ERP導入企業でも同様の効率性を達成できるとの考えによるものです。
「Fit to Standard」は、ERPが近年のように普及する前の状況に回帰したようにも思えます。
ERPでなぜ、「Fit to Standard」なのか?
なぜ、最近「Fit to Standard」が見直されて来ているかを考えてみましょう。ERPはデータや業務機能の一元管理や業務間の自動連携など多くのメリットがありますが、多くのERP導入プロジェクトにおいて、ERPのカスタマイズやアドオン開発が増大し、次のような事象が発生しています。
・導入スケジュールが長くなる、あるいは計画が延びる
・導入コストが増大する
・ERPのバージョンアップへの対応コストが大きくなる
・環境の変化が激しい現在、システムを迅速かつ柔軟に変更できない経営上のリスクがある
これらが発生してしまうことが、ERP導入における大きなデメリットになっています。
特に日本においては、業務の手順や手続きについて変更することに抵抗があり、それによりカスタマイズやアドオンが増大しているのです。
このERP導入の最大のデメリットを解消してERPを導入しようという機運が「Fit to Standard」につながっているといえます。
現在の「Fit to Standard」とERP黎明期の「ベストプラクティス(Best Practice)のERPに業務を合わせて導入する」とでは、同様の内容のように思われますが、大きく異なる面があります。
この点については、後述していきます。
黎明期の「ベストプラクティス(Best Practice)のERPに業務を合わせて導入する」の時期では、ERPは全てオンプレミスでしたが、その後のクラウドの普及や新しい技術の存在もこの「Fit to Standard」を後押ししている面もあります。
下図から、SaaS版ERPが伸びていることが分かります。

Fit to Standard の内容
業務変更に抵抗のある日本で「Fit to Standard」を実現するにはどうすれば良いかを考えていきましょう。
①中核業務についてはERP標準機能をそのまま使う方針でプロジェクトを進める
(業界や業務機能のテンプレートがある場合はテンプレート機能を含めて考える)
②どうしてもERP標準機能が業務に合わない場合は、他のクラウドベースのソリュー
ション/パッケージを利用して連携することを考える
中核業務ではない周辺業務などでは、この考え方は特に有効です。
③適切なソリューション/パッケージが見当たらない場合は、ERPと連携しているロー
コードツール(プログラミング・スキルを必要とせず設定により機能を作成できるツ
ール)を使用することを考える
ERPベンダーに委託せずに導入企業側の社員自身で機能を作成できます
弊社が扱っているERPのDynamics 365 Business Centralでは、Power Platformが
これらに対応します。
上述の実現手段の中で、最も難易度が高いのが①であることはご理解いただけると思います。
①の中核業務についてはERP標準機能をそのまま使う、について掘り下げてみましょう。
これには、業務プロセスの見直し整理が欠かせません。
ERPの標準機能がベースとしている業務プロセスに現行業務のプロセスを合わせる、あるいは、近づけることです。
これを実現するためにはERP導入フェーズの要件定義フェーズの前に「業務の見直し整理」のフェーズを設けて進めることになります。
何のために何ができれば良いかの基本に立ち返ることで、業務プロセスの見直しができるのです。
弊社では、「業務改善&RFP作成サービス」を用意しており、これが「業務の見直し整理」に対応しております。
②について考えてみましょう。
一時、ECOシステム(エコシステム)という言葉がはやりました。
ITの分野でECOシステムとは、クラウド上で稼働するサービスやソリューションを組合わせて連携させてシステムを構築するというものです。
②の考え方は、このECOシステムと同様の考え方です。
ただ、ERPの場合はERPと他のクラウドサービスやソリューションとの組合せという点が異なるだけです。
クラウドサービスとはAPIなどで連携してERPと一体化するのです。
黎明期の「ベストプラクティス(Best Practice)のERPに業務を合わせて導入する」の時期では、ERPは全てオンプレミスですから、①に限定されます。
現代の「Fit to Standard」は①に②と③が加わったところが大きく異なるのです。
時代の流れの中でのクラウドの普及やIT技術の進歩に伴い、「ベストプラクティス(Best Practice)のERPに業務を合わせて導入する」から「Fit to Standard」へと進化してきたといえるのではないでしょうか。
弊社のDynamics 365 Business Central導入においては、「Fit to Standard」を基本としております。
Fit to Standardの進め方
中核業務についてはERP標準機能をそのまま使う方針でプロジェクトを進めるには、ERP導入フェーズの要件定義フェーズの前に「業務の見直し整理」のフェーズを設けて進めることになりますが、では、「業務の見直し整理」はどのように進めれば良いかを考えてみましょう。
| 実施主体 | 実施内容 | |
| ① | 導入企業 | 現行、あるいは、想定されている業務プロセスを導入ベンダーに説明する |
| ② | 導入ベンダー | ERP導入企業の現行、あるいは、想定されている業務プロセスとERP標準機能ベースの業務プロセスを突き合せる |
| ③ | 導入ベンダー | 業務プロセスの異なる箇所を明確にし、ERP導入企業に提示する |
| ④ | 両者 | 異なる箇所の業務プロセスをERP標準機能ベースの業務プロセスに変更できるかを協議する |
| ⑤ | 導入ベンダー | ERP標準機能ベースの業務プロセスに変更できない場合は、ERP標準機能ベースを多少変更した業務プロセス(ERP標準機能ベースの別の手段)を提示する |
| ⑥ | 両者 | 変更案の業務プロセスで採用できるかを協議する |
状況により⑤と⑥を繰り返します。
それでも変更案を採用できない場合は、ERP標準機能が採用されないことになり、次の手段を検討することになります。
・他のクラウドベースのソリューション/パッケージを利用して連携できないか考える
・ERPと連携しているローコードツール(プログラミング・スキルを必要とせず設定により機能を作成できるツール)を使用することを考える
基本的な進め方は上述のイメージですが、弊社の「業務改善&RFP作成サービス」も同様の進め方です。
業務の見直し整理を進める上でのポイントとして次の点があります。
・何のために何が実現できれば良いかという視点で考える
異なる手順でも実現できる方法はいくつもあるので、それらから採用できそうなものを選択する
・導入ベンダーはERP標準機能ベースで実現できる業務プロセスのバリエーションを
提示できるようにERP標準機能を熟知していることが必要
弊社では、業務とERP製品に精通したコンサルタントが業務の見直し整理を行っております。
是非、弊社の「業務改善&RFP作成サービス」をご検討ください。


