Dynamics 365 Business Central導入前の課題
・前の基幹システムの運用が属人化しており、一人しか操作できない状態だった
・海外事業の規模が拡大していたことから、拡張性の高いシステム基盤を構築する必要があった
Dynamics 365 Business Central導入後の効果
・複数のメンバーがシステムを操作できるようになり、属人化を解消
・Dynamics 365 Business Centralの自走運用に向けたスキルを習得し、ベンダー依存度を低減
Dynamics 365 Business Central導入の背景
属人化したシステム運用と海外事業拡大への対応が急務に
今回は、流通小売業として雑貨から飲食までさまざまなブランドの事業を展開する会社にお話を伺いました。
同社は、日本国内だけでなく海外にも卸売業の拠点を持ち、小売の展開も計画しています。近年、ホールディングス化を実施し、各事業を子会社として再編成しました。「その目的は自立です。各事業が利益を意識して経営していくことで、会社をより強く育てていくことが狙いです」と話すのは、グループ全体のIT施策を統括する責任者です。
これまで同社では、マイクロソフトのオンプレミス型ERP「Dynamics NAV 2013」(以下、NAV)を基幹システムとして日本と上海に導入していました。しかし、NAVを導入していたのは一部のブランドの海外事業のみで、他のブランドの海外事業ではNAVは使われていませんでした。また、他のアジア拠点ではシステム自体を使用していない状況でした。つまり、ブランドごと、拠点ごとにシステムの有無がバラバラだったのです。
さらに問題だったのは、NAVを導入している拠点でも十分に活用できていなかったことです。「とにかく属人化していて、一人しか使える人がいないという状態でした。受発注管理はExcelで行っていて、NAVは出荷の段階になってからデータを入力し、インボイスなどの輸出帳票を出すためだけに使っていたのです」とIT責任者は当時の状況を振り返ります。システムは入っているものの本来の力を発揮できておらず、基幹システムとしての役割を果たしていない状態だったといえます。
こうした中、NAVが保守終了を迎えることになりました。製品の保守が終了した状態で使い続けることはセキュリティ面でもサポート面でもリスクが高く、別のシステムへの移行を検討せざるを得なくなりました。ただし、単なるシステムの入れ替えではなく、この機会に課題を根本から解決したかったとIT責任者はいいます。
「上海の拠点では担当者が変わる際の引き継ぎが十分でなく、NAVの特定の処理ができる人が限られてしまうという属人化の課題がありました。システムの使い方自体が難しかったことが原因です。誰もが使えるシステムにしたいというのが大きな課題感としてありました」(IT責任者)
加えて、事業環境の変化もありました。NAV導入当時と比較して、同社の海外事業の規模は大幅に拡大していたのです。
「海外事業では卸売しかしていなかったのですが、小売もやりたいという声が多くなっていました。将来的な事業拡張を見据えて、拡張性の高いシステム基盤を再構築したいと考えました。他のアジア拠点も同様に、きちんとシステムを入れて管理できる体制を整えたかったのです」(IT責任者)
そこで、新システムの要件を整理しました。まずは、上海で行っていたような販売、購買、在庫管理といった事業に関する数値の管理を最低限の要件としました。次に、以前は機能があったものの使われていなかった関連会社間取引機能を必須にし、そして、誰にでも使いやすく操作が属人化しないことも要件に加えました。さらに、小売をキーワードに今後直営店を出すことになった際にも対応できる仕組みを目指しました。
Dynamics 365 Business Centralの選定・導入のポイント
コスト面と拡張性を両立するD365 BCを採用し、標準機能ベースで再構築
上述した要件をもとに製品を検討する中で候補に挙がったのが、同じDynamicsシリーズのクラウド型ERP「Dynamics 365 Business Central」(以下、D365 BC)でした。同社では以前、上位製品にあたる「Dynamics 365 Finance and Operations」の導入した実績がありましたが、海外事業についてはコスト面などを理由に見送ったという背景があります。
「Dynamics 365 Finance and Operationsは、機能が非常に豊富で何でもできることはすでに理解していましたが、使いこなすには一定のスキルが必要ですし、コストもD365 BCより高くなります。また、海外事業の規模を考えると、D365 BCのほうがコスト面で優位性があり、小売事業をサポートするシステムとして必要十分な機能を備えていると判断しました」(IT責任者)
導入パートナーの選定にあたっては、社内で複数社によるコンペを実施することになりました。
「日本マイクロソフト社に相談して、D365 BCの導入ができそうな会社を全部教えてほしいとお伝えしました。いただいたリストから数社にコンタクトを取り、提案を受けた結果、テクトラジャパンに決めました。これまでお取引はなかったのですが、提案内容が他社と比べて具体的かつ的確で当社の課題をしっかり理解していると感じましたし、担当者の対応も丁寧で安心してプロジェクトを任せられると判断しました」(IT責任者)
テクトラジャパンの提案は、同社の課題に正面から向き合うものでした。具体的には、現行業務における属人的な処理やシステム課題を洗い出し、クラウド型ERPの利用を前提としたあるべき業務フローを整理します。また、D365 BCの標準機能、特にNAV 2013から強化された機能の活用を意識したFit Gap分析を実施します。Gapに対してはパッケージ本体へのアドオン開発を極力最小化し、Power Platformやレポーティングツールを活用したソリューションで対応します。加えて、クラウドソリューションの自走運用に備えたスキルトランスファーも提案に含まれています。
このプロジェクトを進めるにあたり、同社には明確な方針がありました。
「最初からIT部門が主導するのではなく、ユーザーとなる事業部門のメンバーを巻き込んで、一緒に最後まで進めていくことが重要だと考えました。時間も工数もかかりますが、それが必要だと感じたのです。もう一つは、カスタマイズを最小限に抑えて、標準機能をベースに運用を組み立てたいということでした」(IT責任者)
その背景には、NAV時代の反省がありました。システムが十分に理解されないまま運用され、結果として属人化を招いていたのです。そこで早い段階からユーザーにD365 BCを理解してもらうことで、属人化を防ごうとしました。また、カスタマイズを最小限に抑えることで、シンプルで保守しやすい運用を目指しました。帳票系の開発は海外取引で必要な書類フォーマットに合わせるために行いますが、それ以外の機能開発はしない方針としました。
もう一つ、今回のプロジェクトで重要だったのは、NAVからのデータ移行ではなく、新規にシステムを構築するアプローチを採用したことです。通常、NAVからD365 BCへの移行では、既存のデータベースをそのまま移行する方法もあります。しかし、同社ではNAVを十分に活用できていなかった以上、既存の設定やデータをそのまま引き継いでも課題の本質的な解決にはつながりません。「業務フローを一から分析し直して、システムフローを検討し、使いやすいシステムをゼロベースで構築するやり方を選びました」とIT責任者は説明します。テクトラジャパンに対しては、要件定義から本稼働まで一貫した体制で進めること、過去のデータをすべて移行するのではなく、本稼働時の残高に限定して移行し、運用を継続できる形を作りたいと依頼しました。
2024年4月に契約を締結し、プロジェクトが始動しました。当初は段階的な導入を予定していましたが、計画を前倒しし、日本・上海を含む複数のアジア拠点で2024年11月に同時稼働させる方針に変更しました。契約から本稼働まで約8カ月でのプロジェクト遂行となりましたが、同社ではすでに多くのクラウドサービスを活用しており、クラウド型ERPの導入に対する心理的なハードルは低かったといいます。
短期間でのプロジェクト遂行を可能にした要因の一つが、テクトラジャパンと同社の効果的な役割分担でした。今回のプロジェクトでは約15本のレポート開発が必要でしたが、すべてをテクトラジャパンが担当していてはスケジュールに収まりません。そこで、テクトラジャパン主導のもと、同社にもレポート開発のトレーニングを実施し、一部のレポート開発を同社のプロジェクトメンバーが担う体制としました。
同社の担当メンバーには、3時間のトレーニングセッションを2回実施することで開発スキルを習得していただき、その後は役割分担を決めて並行して開発を進め、テクトラジャパンはデータモデルに関する質問対応などをサポートすることにしました。また、要件定義から本稼働、その後の保守まで同じチームが一気通貫で担当する体制も、プロジェクトをスムーズに進める要因となりました。
「今回は一度も海外現地に渡航することなく導入を完了できました。日本からリモートで要件定義からトレーニング、本稼働支援まで対応いただけたのは、テクトラジャパンの支援体制があってこそだと感じています」(IT責任者)
Dynamics 365 Business Centralの導入効果
属人化を解消し、将来の海外事業拡大に対応できる基盤を確立
D365 BCの導入から約1年が経過し、現在は日本と上海を中心に約15名のユーザーが利用しています。一部のアジア拠点については、現地スタッフを置かず日本側からオペレーションを行う体制のため、日本のユーザーが運用を担っています。「定性的な効果としては、以前より多くのメンバーがシステムの使い方を習得し、属人化を解消できたことが挙げられます。NAVを使用していた際は一人しか操作できない状態でしたが、今では複数のメンバーが対応できるようになりました」とIT責任者は語ります。
加えて、ローコードでレポート開発が可能なソリューションの活用スキルを社内で習得できたことも大きな成果でした。前述のように今回のプロジェクトでは約15本のレポート開発が必要でしたが、テクトラジャパンからトレーニングを受けたうえで、一部のレポートは同社のプロジェクトメンバーが自ら開発を担当しました。これにより開発コストとスケジュールの圧縮につながっただけでなく、システムのデータモデルへの理解も深まりました。
「レポート開発を通じて、D365 BC全般に対する理解が進み、自分たちでサポートできる範囲が広がりました。結果として、ベンダーへの依存度を下げ、自走できる体制を構築できたと感じています」(IT責任者)
今回のプロジェクトが予算内で完遂できた点も評価されています。通常、ERP導入プロジェクトでは、要件定義後に追加開発が膨らみ、当初の見積もりを超過するケースも少なくありません。今回も、UAT(ユーザー受け入れテスト)の段階で当初想定していなかった業務パターンがいくつか判明しましたが、その多くはD365 BCの標準機能でカバーでき、操作シナリオを追加するだけで対応が可能でした。
「テクトラジャパンは少数精鋭で小回りが利くため、追加要件にもアジャイル的に対応してもらえました。振り返りの場でも、この柔軟な進め方が良かったという声が社内から上がっています」(IT責任者)
システムの使いやすさについても、社内の評価は良好です。
「NAV時代はリモートアクセスのために別のクラウドを経由する必要があり、接続が不安定になることもありました。その対応だけでも手間とストレスがかかっていたのですが、D365 BCはクラウドネイティブなのでそうした問題がなくなりました。マイクロソフト製品やサービスとの親和性も高く、操作に慣れるまでの期間も短かったと感じています」(IT責任者)
物流や取引の量は以前と比べて大幅に増加していますが、D365 BCによる業務効率化は着実に進んでいるとIT責任者は語ります。
今後の展望
グループ内への展開と海外小売事業の拡大を目指す
今後は、グループ内でのD365 BCの横展開を進めようと計画しています。
「現在、D365 BCを導入しているのはグループ内で1社のみです。今後は、海外展開を検討している他のグループ会社にもD365 BCを導入し、支援していきたいと考えています」(IT責任者)
同社の事業は日本国内が中心ですが、海外進出を検討する声が社内で増えているといいます。ただ、D365 BCを導入していない会社では多言語・多通貨への対応ができず、現地の商習慣に合わせたローカライズを支援するパートナーも不在という課題があります。こうした会社にD365 BCを導入することで、海外展開の基盤を整備したいという考えです。
「当社の海外事業は、これまで卸売が中心でしたが、今後は小売も展開していく戦略です。D365 BCには店舗管理や小売向けの機能も備わっており、直営店を出す際にも対応できると期待しています。海外シフトはもちろん、同じような状況にある小売業の会社が海外進出する際にも、私たちの経験を活かして支援していきたいですね」(IT責任者)
今回のプロジェクトを通じたテクトラジャパンへの評価についてIT責任者は「D365 BCに限らず幅広い領域で深い経験と知見をお持ちで、問題が発生した際も的確かつ迅速に対応していただきました。おかげでプロジェクトをスムーズに進めることができました。現在も別のプロジェクトで協業しており、D365 BCの思想や活用方法について継続的にご指導いただいています」と話します。
続けて、「D365 BCはマイクロソフト製品やサービスとの親和性が高く、機能も豊富で非常に優れた製品です。特に海外シフトを考える企業にとっては最適なソリューションだと思いますので、テクトラジャパンにはぜひD365 BCをもっと広めていってほしいです。もちろん、私たちも今回の導入で得た知見を活かし、グループ内外の企業に対してD365 BCの導入を提案できる体制を整えていきたいと考えています」と、IT責任者はテクトラジャパンへの期待を語りました。

